『停電の夜に』ジュンパ・ラヒリ
停電の夜に

[人の心の距離の近さ、遠さ]


英語圏で暮らすインド人が主人公たちの物語、9編による短編集。
文化の、言葉の、心の「ズレ」の物語。

人と人との距離は、どんな物差しでも均等には測れない。
どんなに近くにいても心が交わらない場合もあれば、大した共通点があるわけでもないのに、ふと理解しあえる場合もある。

まるで精巧な象牙細工のような作品である。
丁寧に磨かれて掘り込まれ、ひやりと冷たく、小さいながらに手にずしりと重い。
ズレが起きたそのわけと悲しみが、どの作品もとても丁寧に描かれている。
中途半端にやさしく終わらないのが、現代的か。

おすすめは「停電の夜に」(光がないからこそ浮き上がる心)、「セクシー」(ロマンティックなシーンがあるぶん、その後がまたなんとも)、「ビルザダさんが食事に来たころ」(哀愁漂うおじさんがいい)。

マジョリティの白人作家では絶対に書けないものが、彼女の作品にはある。
(もちろん、インド系の中では彼女はエリートであるわけだから、そこらへんはなんとも言いがたいが・・・)
とはいえ、文句なしにおすすめの現代作家短編。


...Jhumpa Lahiri INTERPRETPR OF MALADIES , 1999.
 ジュンパ・ラヒリ/小川高義訳『停電の夜に』新潮社、2000年。

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「人ひとりのことを知るためには、塩1トン必要である」
と言ったのは、イタリア文学研究家の須賀敦子さん。
どんなに近くにいる人でも、心までの距離は同じとは限らない。
直接的な描写がない分、この距離がじわりと重い。
異文化とのすれ違いは、日本人ではなかなか分かりにくいと思うけど、だからこそのおもしろさ、というのもあるのではないかな。


reccomend:
>ラッタウット・ラープチャルーンサップ「観光」 (異文化との出会いって、じつはそんなに甘いものではない)
>V.S.ナイポール「ある放浪者の半生」 (さすらい続けた場合の話)
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