24,
2008
[悪魔のみぞ知る]
「人生のトランプはよく切られている」(本文より)
ウクライナ、キエフ生まれの旧ソ連の作家による、一大奇想小説。
最初から最後まで一貫してハイテンションの渦、盛大な打ち上げ花火のように魔法が使われて、なんとも派手な物語。
ブルガーコフは元医者で、白軍(反革命軍)に従軍医師として参加したこともある。
スターリン時代のソ連で、風刺をきかせた作品を作ったため、反体制の作家として長い間沈黙の淵に沈んでいたが、のちのちになって、再評価される。
反体制の作家、といっても、政治的主張や暗部が、作品の表面に現れているわけではない。
むしろ、これでもか!と笑い飛ばす風刺が、ブルガーコフの作品のおもしろさではないかと思う。
とにかく、まるでとんちんかんな魔術だらけである。
黒魔術師ヴォランドとそのご一行様(黒猫のベゲモートがかわいい)が、不吉な予言をしたり、ショーで金品をばらまいたり(当然それらは後になって消える)、火を吹かせたり消えたり消したり、派手に痛快に、モスクワで暴れまくる。
主人公であるところの「巨匠」は3分の1を過ぎても登場せず、「マルガリータ」は半分きてようやく登場する。
その途中にも、2千年前のイエスとピラトの物語、いわゆる「小説の中の小説」が入り込んできたり、マルガリータが魔女になって裸でモップにまたがって空を飛ぶなど、いろいろと印象的なシーンが多すぎる。
なんというか、いろいろ物議をかもす本だろうなあ、と思う。
悪魔が大暴れする小説の中に、イエス・キリストの処刑と、処刑を決めた総督ピラトの物語が挿入されたり、魔女化した「マルガリータ」とイエスの合わせ鏡でもある「巨匠」が恋人同士だったり、神と悪魔の並列が随所に見られる。
どことなく悪魔崇拝っぽいから、さぞかしロシア正教会あたりは怒ったのではと思う。
一方で、「悪や影がなければ善もない!」と言っているヴォランド氏の言葉は、あるひとつの主張としては、ひどくまっとうでもある。
そういえば、読んでいてふと南米文学を思い出した。
ガルシア・マルケスが、「南米では昨日まで確かにあったことが、まるっきりなかったことになっていることも少なくなかった」と述べているのを見たことがある。
当時のスターリン政権下も、そんな感じだったのではないだろうか。
われわれからすれば、ファンタジーとしか思えないようなことが、現実に起こりうる世界。
突然逮捕され、火がつき、金が増えては消え、人も知らず消えていく。
たぶんブルガーコフが描いているのは、魔術で再構成された当時のソ連だったのだろう。
乱痴気騒ぎが行われる日常、こうなったらもう笑うしかないような。
あと、おもしろいと思ったのが「悪魔言葉」。
ロシアではいわゆるののしり言葉で「悪魔にさらわれろ!(こん畜生的意味)」「悪魔のみぞ知る(知ったことか的意味)」などが使われるらしい。
そういえば、米原万里さんも、ロシアのののしり言葉の豊富さを賞賛?しておられた。
エンターテイメントとして、愉快に楽しく読める物語。
一方で、スターリン政権下の検閲にあった、著者のひそやかな叫びが、哄笑の影に響いている。
「そんなはずはありません。原稿は燃えないものです」
...Михаил Афанасьевич Булгаков Мастер и Маргарита ,1928.
ミハイル・A・ブルガーコフ/水野忠夫訳 『巨匠とマルガリータ』 河出書房、2008年。
recommend:
>チェスタトン『木曜日だった男』 (スパイスの効いたどたばた喜劇)
>ストルガツキイ『滅びの都』 (全体主義を風刺する)
rate:☆☆☆☆
途中で挿入されているイエスの処刑とピラトの物語は、新約聖書を読んでいると、よりおもしろいと思う。
web上で聖書訳を見つけたので、貼っておきます。
http://bible.50webs.org/sj/
口語訳聖書。マタイ=マトヴェイなので、マタイの福音書がいいかも。最後の方にピラトが出てくる。
聖書は聖書で読み物としては、そうとうおもしろい。

こちらの表紙もなかなかかわいい。やはり猫か!

もうひとつ、英語版wikiで見つけたベゲモート像。かわいいなあー




ふくろう男


最初から無神論討議と魔法など、テンション高くてスピード感ありましたね。
ファンタジーがソ連事情とあいまって、こんな不思議な物語ができたのかな、と思っています。
ソ連崩壊した時点で小学生だったので、そこは資料と想像の域ですが。
今なら映画化したらどうだろうとか、ふと考えてみたりしました。