『デミアン』ヘルマン・ヘッセ
デミアン


[影の世界に惹かれ]

「私は、自分の中からひとりでに出てこようとしたことろのものを、生きてみようとしたにすぎない。
なぜそれがそんなに困難であったのか。」(本文より)


書斎の住人であった祖父に、「これまでの人生で、印象的な、好きな本は?」と聞いたところ、ヒルティの「眠られぬ夜のために」と、ヘッセの「デミアン」だ、という答えが返ってきた。
敬虔なクリスチャンであり、またドイツ好き(本人の気質もドイツ人そっくりだ)な祖父らしいチョイスだなあと思う。
というわけで、書斎の住人になりたい孫も読んでみた。
今回の読書は、そんな個人的な経緯から始まっている。

ヘルマン・ヘッセは、日本でも古くから親しまれてきたドイツ作家である。
ヘッセといえばまず思い出すのは「車輪の下」 。
今回のあらすじも、学校になじめない少年の青春時代の回想記らしく、やはり「車輪の下」と同じような感じなのかな?と思っていた。
だが、「デミアン」は印象がかなり違っていた。
どちらも青春時代であることは一緒だが、「車輪の下」がノスタルジックな青春だったのに対して、「デミアン」はもっと暗い色彩が濃くなっている。
異教的、とでも言ってもいいかもしれない。

この世には、「明るい世界」と「そうでない世界」というふたつの世界がある。
明るい世界に生きていた者が、ふとした瞬間にもうひとつの世界に気づいて、そちらに惹かれていくという話。
主人公は、幸せで敬虔なキリスト教の家族の中に生まれたが、ふとついた嘘で、自分の中にある「ずれ」をはっきりと認識していく。
主人公の少年に影響を与えたデミアンは、他者とは別の信念に基づいて行動する、「そうでない世界」の少年だ。
デミアン=デーモンの名前のとおり、そこには奇妙な引力がある。

ヘッセのキリスト教批判心が色濃い物語。
年をとり、彼もなにか思うところがあったのだろうか。
選択の余地はないと、運命を受け入れているあたり、どことなく東洋的、神秘主義っぽい。


祖父が「車輪の下」ではなく、「デミアン」を選んだのが、少し意外だった。
クリスチャンでも、このダークサイドは受け入れられるのか、それともむしろ、クリスチャンだからこそ毒気のないものより、毒がある方を好むのか。
けっきょくそのことについては聞けず仕舞いになってしまった。

他者と自分はちがうという自尊心と、闇の部分に踏み入れ、焦がれて生きること。


...Hermann Hesse DEMIAN: Die Geschichte von Emil Sinclains Jugend , 1919.
 ヘルマン・ヘッセ/高橋健二訳 『デミアン』 新潮社、1951年。



recommend:
>ヘッセ「車輪の下」 (比べてみるとおもしろい)
>ゲーテ「若きウェルテルの悩み」 (ドイツ青年の悩み)
rate:☆☆☆☆
ふくろう男
ドイツ文学
4 0

comment
コメントありがとうございます
こんばんは、ninaさん。
ninaさんのブログを拝見しております。どうやら、お互いにはじめまして、は保留のようですね。笑

こちらこそ、いつも楽しみに読んでいます。自分の普段の生活圏では、海外文学を読む人間はほとんどいないので(SF読みは若干名いますが…)、ninaさんのような読書家の方の見方を知る機会ができて、ブログを始めてよかったなあと思います。


「シッダールタ」は、ちょうど積読の中に鎮座しております。ちょっとがんばって、研究の合間に読んでみます。
余談ですが、クンデラの「可笑しい愛」、あれはすごいですよね。(好きな作品にあげておられたので)
あそこまで突き刺してくる作品には、なかなかお目にかかれない。
2008/08/16 23:21 | | edit posted by ふくろう男
こんばんは、「本ブログ」から来ましたPenny Laneのninaです。いつも楽しみに読ませて頂いている上に、ずっと何かしらのコメントをしようと思っていたので、はじめまして、と発する気になれません。
読書の趣向が似ている分、大いに勉強になります。読みたい本が増えすぎて、困っているのが現状ですが。不精なもので中々連絡をとることもないかと思いますが、これからも「本ブログ」のランキング下位争いを楽しみましょう。
今後も楽しみにしています。

追伸:『デミアン』は僕も大好きです。『車輪の下』よりも、『デミアン』、『シッダールタ』こそ、ヘッセの真髄だと思っています。わざわざ言わずとも、いずれ手に取られるでしょうが、是非。
2008/08/16 02:31 | | edit posted by nina
コメントありがとうございます
こんにちは、ANDREさん。

人から人へ本が渡る時には、それぞれドラマがあるものですね。
私にも、いまだ本棚に残って、開くことのできない因縁の本みたいなのはありますので、お気持ちはわかるように思います。
祖父も、この本を高校生ぐらいの時に読んだと言っていました。
そのぐらいの年齢の青年が、心惹かれるものがあるのかなと思います。

新潮文庫は、地味に表紙を変えてきますよね。
今度は、ドストとかトルストイとかを変えてほしいです。(ピンクのおじいちゃんのアップはちょっと…)
2008/08/03 10:54 | | edit posted by ふくろう男
『デミアン』は高校時代、
友人から「君はこの本を読むべきだ」
と言われて突如渡された思い出があります。

その唐突さと、
友人が何を思って勧めたのかを
知るのがどこか怖くて、
結局、いまだ読めずにいます。
いつかは読みたいのですが、
不思議な思い出に邪魔されているトラウマ的1冊です。

ところで、新潮文庫のヘッセって
水色っぽい表紙で統一されたと思うのですが、
いつの間にやら現代的な
イラスト付の表紙に変わっていたんですね。
2008/08/02 16:46 | | edit posted by ANDRE
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